2018.07.19
アトリエエツコと協業する照明デザイナー 園部竜太さん
空間を美しく包む光り。その裏では計算し尽くされた照明器具選びがあります。建築家と照明デザイナーによって創り上げられる空間とはどのようなものなのか。さらなる価値をもった暮らしを手に入れるヒントを、照明をとおして話していただきました。
「山田悦子(以下、山田)」
「園部竜太さん(以下、敬称略)」
照明デザイナーとはどのようなお仕事なのでしょうか?
園部 照明って器具のデザインにこだわる人は多いですが、その光がどのように広がるのか、どの程度の光量にするのか、どこに光を当てると効果的なのかといったことまで考える人は少ないですよね。そういった光の広がりや色、光量や位置や角度を考え、照明器具を選定し、空間の雰囲気をより良く作り込む“光りのデザイン”をするのが照明デザイナーの仕事です。
山田 最近では私への設計依頼の決め手が「照明デザイナーさんが、一緒に設計についてアドバイスしてくれるから」ということで契約が決まった物件もあるんですよ!(注1)
園部 ありがたいです。ただ、僕の仕事はお客様の理解がとても必要で。家づくりって決めなきゃいけないことがたくさんあって、お客様は大変ですよね。壁紙やら、カーテンやら、キッチンやらといったところに、「照明デザイナーです」って登場するわけですが、そんないっぱいいっぱいな中で更に照明のことを考えるのはものすごく大変で、しかも、なかなか理解できないと思うんです。ですので、出来るだけわかりやすい言葉で、お客様の理解度を見極めて打ち合わせを進めるようにしています。お客様によっては、かなり理解いただいている、もうちょっと踏み込んで説明できそう、って具合で。(笑)
山田 園部さんに入っていただいたお客様は、照明によって暮らしの質がグッと上がったことを実感してくださっていると思います。
園部 僕は照明デザインをする上で、お客様の生活スタイルを把握することを重要視しています。奥様旦那様の生活リズムとか、それぞれの帰宅時間とか、お酒が好きかとか、お子様はどこで勉強するのかとか、家族の団欒をどのように過ごすかとか。生活スタイルによって、設置する照明はだいぶ違ってきますからね。照明器具を入れたけど結局使わなかったという結果は、自分の想像が足りなかったということでしかありませんから。
エツコさんが照明デザイナーを依頼する理由はどんなところなのでしょうか?
山田 立面図や展開図が決まり、窓の位置や大きさが具体的になって「このあたりに間接照明つけたらどうかなー?」と漠然としたイメージが湧いてくると園部さんにご相談します。
ある程度の照明器具選びや配置は想定しますが、照明のスペシャリストである園部さんに入っていただくことによって、照明の存在価値が上がるのは間違いないです。
例えば、入射角とか光量調整といったことは、照明デザイナーでないとはじき出せるものではありません。園部さんはそれを図面でもシミュレーションしてくださいますし、もちろん現場でも調整してくれます。現場の途中で付け足す(もしくは差し引く)こともありますからね。園部さんの照明図面は執着心のかたまりの様です。(笑)ちゃんと物件を見てくださっているんだなと思います。
園部 見せ場はここだ!ということを意識しています。壁の素材や家具を美しく見せるのも、また、夜の時間の過ごし方も照明で左右されますからね。
注意していることですが建築家はディテールにとても厳しいわけですが、照明を組み込むとき、その考えられたディテールを崩さないように心がけています。
山田 施主のI様が、リビングの照明をどうするか迷われていたので、園部さんに照明設計をお願いしました。あえて天井には照明をつけずに、天井上のロフトの淵とリビング横にある階段の淵それぞれに、隠れるように照明を仕込むことにしました。これにより天井は大きく広く見せることができ、間接的で柔らかな光を部屋いっぱいに回すことができました。
園部 そうですね、天井は大きく広く見せたいですからね。照明は基本夜にしか使用しないので、昼ではいかに照明器具の存在を消すかを心がけています。天井につけるダウンライトは、器具の位置を壁際に寄せたり、固めてつけたりして、存在感を少しでも軽減させています。
山田 園部さんは照明のスイッチの配列まで考えてくれるんですよ!建築家はそこまで対応していくのは正直難しいですからね。
園部 スイッチが部屋のどこにあるといいかとか、スイッチの何列目にどの照明があればいいかとか、やがて体が覚えるような自然な位置になるよう調整しています。スイッチを押す動作は直感的でないとダメだと思うんです。
山田 あと例えば夜間にトイレに行く時って、パッと明るくなって目が覚めたりするのって嫌じゃありません?そういう時は廊下の照明スイッチに別にフットライト(足元灯)のスイッチを組み込んだりしますよね。ちょっとしたことで日々のストレスは無くせますよね。
園部 寝室からトイレまでの動線につけるフットライトが欲しいとなれば、お客様のご要望をうかがって、どの間隔でどんな光量でつけるか、打ち合わせしながら決めていきます。
山田 照明器具って設置する位置だけでなく、何を選ぶかも重要になりますが、照明器具の種類は建築家でも迷ってしまうほど膨大な数あります。そんな中で園部さんがスペシャリストとして最適なものを選んでくださるので安心です。
園部 LED時代になり、選べる器具は本当に豊富になりました。軽量化もされ熱量も少なく、良いものが本当にいっぱい増えています。ご紹介したい…僕はメーカーフリーなので、フラットな立場でお客様に提案できます。
(注1)全ての物件に照明デザイナーをつけてはおりません。また、設計料とは別途となりますが、ご興味のおありの方はお気軽にご相談ください。
=編集部後記=
私たち編集部が園部さんのアトリエを訪れた際にまず心動かされたのは、壁一面のタイルを照らす間接照明。柔らかく温かみのある光は、壁のタイルを照らすことによって、部屋全体を有機的で優しい空間にしていました。ところが、メーカーからレビューを書く依頼を受けて仮に置かれていたドイツ製の青い光に切り替えた瞬間に、部屋の中は無機質なオフィスのような温度になり、とたんにヒヤリとした緊張感が増す。それまでの温かい光が、いかに落ち着いた雰囲気を演出していたかを体感させられました。
テーブル周りを柔らかく照らすダウンライトはスイッチひとつで強いスポットライトにもなる。これなら、深夜に黙々と仕事をしたい時にも、家族と食事を楽しむ時にもどちらにも有効で、余計な照明機材の必要がなく省スペースな設計となっています。
間接照明と壁との使い方で、こんなにも部屋が明るく、気持ちも豊かになるとはまったく目からウロコの経験でした。
今回のインタビューをとおして、空間に流れる空気は照明で変えることができる、そんな重要なアイテムであるということを実感しました。
家づくりのポイントに求めるものは人それぞれですが、夜の時間は誰にも訪れ、照明は灯されます。照明デザイナーによる照明設計はここまで細やかな作り込みの中で灯されているということを知り、心動かされた人も多いのではないでしょうか。
オレンジっぽい色はゆったり落ち着きたい時に、白や青っぽい色は家事や勉強などをする時に適していると言われていますが、ここからさらに、子供が勉強をする時や料理中はしっかり明るく、食事や読書の時間は少し明るさを抑え、寝る前やお酒を飲んでくつろぐ時は暗めにする、といったように夜の時間の経過を照明次第で一段と上質な過ごし方に変化することができるのです。
部屋の中心にドカッといっぱつ蛍光灯という暮らしに慣れ親しんでしまった人は多いと思いますが、せっかく建築士に設計してもらう我が家には、自分たちだけの心地いい灯りを手に入れ、これから暮らしていく空間を有意義なものにしたいですね。
LEDの登場で照明器具は日々進化し、様々な特性をもったものが増え続けています。もはやどこのメーカーの何が適切なのか、素人の私たちにはまったく見分けがつかないほど。照明器具の特性を知り尽くした照明デザイナーは、これからますます重要な役目となるでしょう。
written by 編集部(江尻・オガワ)